体験談じゃなく、”正解”を知りたいあなたへ_第2回...
2026/01/31
2026/01/31
こんにちは🌿
芦屋ウィメンズクリニックの
錢 鴻武(せん こうぶ)です。
「その情報は、あなたのための“正解”ですか?」
ネットには、手術を受けた方の体験談があふれています。
ときに心強く、ときに不安を強めてしまう――
その情報と、医療としての説明の間にある「距離」について、
今回の連載では少し立ち止まって考えてみたいと思います。
連載『体験談じゃなく、“正解”が知りたいあなたへ』
第2回のテーマは
「手術前夜の準備――下剤・浣腸・剃毛のこと」
今回は、体験談ではなく、
現在の医学的な考え方と、私自身の手術方針をもとに、
“やらない選択”がなぜ成り立つのかをお話しします。
安心して手術の日を迎えるために。
どうぞお読みください。
「もうすぐ手術の日…」
そう考えだけで、
緊張して眠れなくなる夜が増えますね。
さらにインターネットで
「腹腔鏡手術 前日 準備」
と調べると、目に入ってくるのは
下剤、浣腸、剃毛……。
「え?そんなことまでやらなきゃいけないの?」
と、不安になる方も多いのではないでしょうか。
でも、まずお伝えしたいのは――
それらは、必ずしも必要ではありません。
手術当日朝、
強い緊張と空腹を感じている中で浣腸を受け、
早朝のトイレで気分が悪くなってしまった患者さんを、
私はこれまで何人も見てきました。
医療者として、
とても心が痛む場面です。
私は産婦人科医として長年、腹腔鏡手術を担当してきましたが、
下剤・浣腸・剃毛を行わない方針を、
10年以上続けています。
その間、
それらを省いたことで
術中・術後のトラブルが増えたと感じたことはありませんし、
術後感染症が増えたというデータもありません。
また、
「術前の下剤や浣腸を routine(慣習的)に行うべきではない」
と結論づけている論文も、数多く存在します。
もちろん、病状や手術内容に応じて
対応を変える柔軟性は常に持っています。
ただ、私の基本にあるのは、
「必要最小限の準備で、身体への負担を減らす」
この考え方です。
かつては、
と考えられてきました。
しかし近年の研究では、
下剤や浣腸によって感染が減る明確な効果はなく、
むしろ過度な腸管洗浄が患者さんの負担になることが
分かってきています。
特に婦人科の腹腔鏡手術では、
腸を切除することはほとんどありません。
大腸に便が残っていても、
それが手術の妨げになることはありません。
大腸にガスがたまっている方に遭遇することはありますが、
浣腸をしてもガスはなくなりません。
一時的に減ったように見えても、
その後に再び発生したり、上から移動してくることもあります。
さらに、
術野の妨げになるのは、
便よりもむしろ
小腸や腸間膜に存在する内臓脂肪です。
これは、下剤や浣腸ではどうにもなりません。
むしろ下剤や浣腸を行うことで、
麻酔によって肛門が弛緩し、
下痢便や粘液が排出されて術野を汚してしまい、
かえって感染リスクを高める可能性もあります。
そのため私は、
下剤・浣腸は基本的に不要と判断しています。
これも意外に思われるかもしれませんが、
「毛を剃る=感染予防」という考え方は、
すでに古いものになっています。
剃毛によって生じる
皮膚のごく小さな傷が、
かえって感染の入口になることが分かっており、
現在は剃毛をしないことが標準です。
もちろん、私の手術では剃毛も行っていません。
術野の近くで
どうしても妨げになる場合に限り、
必要最小限の範囲を
手術直前に医療者がカットする程度にとどめています。
他の方の体験記を読んで、
「自分が受けた説明と違う…」
と不安になる方もいらっしゃいます。
でも、大丈夫です。
医療は日々進化しています。
そして、病院や医師によって
“ベストと考えられている方法”が違うのも自然なことです。
あなたの手術が、
無理なく、できるだけ楽に、
そして安全に進むよう、
私たちが責任をもって準備を行います。
✔️ 下剤・浣腸・剃毛は、すべて基本的には必要ありません
✔️ 私自身、10年以上これらを行わずに手術を続けてきました
✔️ 不要な準備を減らすことで、身体への負担を最小限にできます
次回は、これまた多くの方が気になるテーマ――
「食べていい? 飲んでいい?」
術前・術後の飲食管理についてお話しします。
お水はどこまで?
ご飯はいつから?
そんな疑問に、
医師の視点からやさしくお答えします。
🔗診療予約ページ(初診よりオンライン診療もご利用いただけます)
錢 鴻武(産婦人科医/芦屋ウィメンズクリニック院長)
日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡・子宮鏡技術認定医
日本外科内視鏡学会 技術認定(産婦人科領域)
日本女性骨盤底医学会 専門医
「未来を守る医療」を信念に、子宮や卵巣の温存手術では機能の温存・回復にこだわった婦人科手術を専門に行う。
手術の技術だけでなく、術前の迷いや不安にも正面から向き合う診療スタイルが信条。