重いものはいつからOK?自転車・運転・旅行の目安【手術後の生活】...
2026/03/31
2026/07/07
こんにちは。芦屋ウィメンズクリニックの錢鴻武(せん こうぶ)です。
婦人科外来では、次のようなお話をよく聞きます。
「生理の量は多いけれど、昔からなので気にしていません」
「健康診断では貧血はないと言われています」
「子宮筋腫はあるけれど、特に困っていません」
たしかに、ヘモグロビンの値が正常であれば、一般的には「貧血ではない」と判断されます。
しかし、ヘモグロビンが正常でも、体の中の鉄が不足していることがあります。
今回は、ヘモグロビンだけでは見逃される鉄欠乏と、フェリチンやTSATという検査の意味、過多月経との関係についてお話しします。
ヘモグロビンは、血液中で酸素を運ぶ重要なタンパク質です。ヘモグロビンが低下すると、一般的に「貧血」と診断されます。
しかし、体内の鉄が不足すると、まずは蓄えていた鉄が使われます。その間は、ヘモグロビンが正常に保たれていることがあります。
つまり、血液検査で貧血と判定されなくても、体の中ではすでに鉄不足が始まっている可能性があるのです。
これは「鉄欠乏性貧血になる一歩手前」ともいえる状態です。
鉄というと、赤血球やヘモグロビンの材料というイメージが強いかもしれません。
しかし実際には、鉄は筋肉や脳の働き、酵素の反応、エネルギー代謝など、体のさまざまな場所で必要とされています。
そのため、鉄が不足すると、ヘモグロビンが下がる前から、次のような症状が現れることがあります。
鉄欠乏による影響は、疲れや息切れだけではありません。
鉄は、赤血球やヘモグロビンの材料としてだけでなく、脳の働きにも関わっています。そのため、鉄が不足すると、集中力や記憶力、学習する力などに影響する可能性があります。
こうした変化は、「痛い」「苦しい」といった分かりやすい症状ではないため、本人が気づきにくいこともあります。
実際に、1996年に『Lancet』に報告された研究では、貧血ではないものの鉄が不足している思春期の女性に鉄を補充したところ、言葉を覚える力や記憶力を評価するテストの成績が改善しました。
つまり、ヘモグロビンが正常で、本人が特に不調を自覚していなくても、鉄欠乏が脳の働きに影響している可能性があるということです。
特に、成長期や受験期の学生、仕事や育児で頭を使うことの多い女性では、
「最近、集中力が続かない」
「以前より物覚えが悪くなった気がする」
「頭がぼんやりする」
「寝ても疲れが取れない」
といった変化を、忙しさや睡眠不足、年齢のせいだと思ってしまうことがあります。
もちろん、こうした症状の原因は鉄欠乏だけではありません。しかし、月経量が多い方では、本人が自覚している以上に鉄が不足していないか、一度確認する意味があります。
鉄欠乏を評価するときには、ヘモグロビンだけでなく、フェリチンやTSATなどを組み合わせて考えることが大切です。
フェリチンは、体の中に蓄えられている鉄、つまり「貯蔵鉄」を反映する検査です。
たとえるなら、ヘモグロビンが「今使っているお金」、フェリチンが「貯金」です。
ヘモグロビンが正常でも、フェリチンが低下していれば、鉄の貯金はすでに減っています。
一般的には、炎症などがない状態でフェリチン30ng/mL未満であれば、鉄欠乏を疑います。
WHOでは、健康な5歳以上の方についてフェリチン15μg/L未満を鉄欠乏の目安としていますが、臨床では30ng/mL未満を鉄欠乏として扱う考え方も広く用いられています。
ただし、フェリチンは炎症や感染症などがあると、実際の貯蔵鉄より高く見えることがあります。
血清鉄は、血液中を運ばれている鉄を調べる検査です。
ただし、血清鉄は食事や採血時間、炎症などの影響を受けやすいため、単独では判断できません。
そこで参考になるのが、TSAT(トランスフェリン飽和度)です。
TSATは、鉄を運ぶタンパク質であるトランスフェリンに、どの程度鉄が結合しているかを示します。
簡単にいえば、「今、体が利用できる鉄がどのくらいあるか」を見る指標です。
鉄欠乏の評価では、ヘモグロビン、フェリチン、血清鉄、TIBC、TSATなどを組み合わせて判断します。
鉄欠乏には、大きく分けて二つの状態があります。
体の中の鉄そのものが不足している状態です。
主な原因には、次のようなものがあります。
この場合は、貯蔵鉄を反映するフェリチンが低下します。
体内に鉄がある程度蓄えられていても、炎症や慢性疾患などの影響で、必要な場所に鉄をうまく届けられない状態です。
この場合、フェリチンは正常または高めでも、TSATが低下することがあります。
たとえるなら、倉庫には鉄があるように見えても、必要な現場に届いていない状態です。
月経による出血が主な原因の場合には、絶対的鉄欠乏が中心となります。
子宮筋腫や子宮腺筋症などによる過多月経は、鉄欠乏や鉄欠乏性貧血の重要な原因です。
しかし、月経量には個人差があり、他の人と比べる機会もほとんどありません。
そのため、
「昔から多いので、これが普通だと思っていました」
「困ってはいません」
「健診で貧血はないと言われました」
と話される方も少なくありません。
月経量が多い状態が毎月続くと、体はまず、貯蔵鉄であるフェリチンを使ってヘモグロビンを維持しようとします。
そのため、初期にはヘモグロビンが正常でも、フェリチンだけが低下していることがあります。
さらに鉄の貯金が減ると、やがてヘモグロビンも低下し、明らかな鉄欠乏性貧血になります。
つまり、ヘモグロビンが下がった時点では、すでに鉄欠乏がかなり進んでいる場合があります。
鉄欠乏は少しずつ進行するため、本人が体調の変化に気づきにくいことがあります。
「年齢のせい」
「仕事が忙しいから仕方ない」
「子育て中だから疲れるのは当然」
「生理が多いのは昔から」
そのように考え、慢性的な疲労や息切れを、自分にとっての普通だと思っていることもあります。
鉄欠乏を補正した後に、
「体がこんなに軽いとは思いませんでした」
「階段が楽になりました」
「頭がすっきりしました」
と話される方もいます。
大切なのは、つらさを我慢することではなく、毎月の出血によって体の鉄が少しずつ失われていないかを確認することです。
次のような方は、ヘモグロビンだけでなく、フェリチンやTSATを含めた鉄の評価を検討してもよいでしょう。
特に、子宮筋腫や子宮腺筋症があり、月経量が多い方では、ヘモグロビンが正常でも鉄欠乏が隠れていることがあります。
鉄欠乏がある場合には、鉄剤などで鉄を補うことが大切です。
しかし、過多月経によって毎月鉄が失われ続けている場合、鉄を補うだけでは、いずれまた不足してしまいます。
水が漏れているバケツに、水を足し続けるようなものです。
そのため、治療では、
という三つの視点が必要です。
月経量を減らす方法には、ホルモン療法、子宮内黄体ホルモン放出システム、子宮筋腫に対する子宮鏡手術や腹腔鏡手術などがあります。
どの治療が適しているかは、年齢、妊娠希望、筋腫の大きさや場所、症状の程度、生活背景によって異なります。
ヘモグロビンは、貧血を評価するために重要な検査です。
しかし、ヘモグロビンだけでは、貧血になる前の鉄欠乏を見逃すことがあります。
月経は毎月のことです。だからこそ、少しずつ失われる鉄の影響は見えにくくなります。
「生理の量は多いけれど、貧血はないと言われた」
「子宮筋腫があるけれど、特に困っていない」
「疲れやすいけれど、年齢や忙しさのせいだと思っている」
そのような方は、一度、ヘモグロビンだけでなく、フェリチンやTSATを含めて、体の鉄が本当に足りているかを確認してみてもよいかもしれません。
「貧血ではない」だけで終わらせず、「鉄は足りているか」まで見ること。
それが、女性の体調と日常生活の質を守るために大切です。
当院では、過多月経の原因となる子宮筋腫、子宮腺筋症などの診断と治療を行っています。
薬物療法や子宮内黄体ホルモン放出システム、子宮鏡手術など、状態やご希望に応じた治療をご提案します。腹腔鏡手術などが適している場合には、適切な医療機関へのご紹介も行います。
「昔から量が多いだけ」
「健診では貧血なしと言われた」
「困っているほどではない」
そう思っていても、鉄欠乏が体調不良の原因になっていることがあります。
月経量が多い方、子宮筋腫を指摘されている方、貧血ではないのに疲れやすさが気になる方は、ご相談ください。
🔗診療予約ページ(初診よりオンライン診療もご利用いただけます)
錢 鴻武(産婦人科医/芦屋ウィメンズクリニック院長)
日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡・子宮鏡技術認定医
日本外科内視鏡学会 技術認定(産婦人科領域)
日本女性骨盤底医学会 専門医
「未来を守る医療」を信念に、子宮や卵巣の温存手術では機能の温存・回復にこだわった婦人科手術を専門に行う。
手術の技術だけでなく、術前の迷いや不安にも正面から向き合う診療スタイルが信条。
趣味はマラソン。走る医師として、サロマ湖ウルトラマラソンを10回完走し「サロマンブルー」の称号を得ている。フルマラソン自己ベストは2時間53分、富士登山競走も2回頂上まで完走。
