重いものはいつからOK?自転車・運転・旅行の目安【手術後の生活】...
2026/03/31
2026/08/16
こんにちは。芦屋ウィメンズクリニックの錢鴻武です。
最近、日々の診療のなかで気になっていることがあります。
外陰部のかゆみや白いおりものなど、カンジダ腟炎を疑う症状で受診した20代前半の患者さんから、検査をしてみるとクラミジアや淋菌が見つかるケースが続いているのです。
患者さんは、性感染症を心配して来院したわけではありません。実際にカンジダ腟炎を発症しており、主訴はあくまで、かゆみやおりものの変化でした。
ところが、診察の際にお話を聞くと、
といった背景がありました。
そこで性感染症の検査も行ったところ、本人にはほとんど自覚症状のなかったクラミジアや淋菌が見つかりました。
長年、産婦人科医として診療してきた私自身も、開業して一般の婦人科診療を幅広く行うようになり、
性感染症は、多くの方が思っているよりもずっと身近にある
と改めて感じています。
女性がクラミジアに感染しても、はっきりした症状が出ないことは珍しくありません。
おりものが増える、不正出血や性交後出血がある、下腹部に違和感があるといった症状が出ることもありますが、まったく自覚症状がないまま経過することもあります。
症状がないから大丈夫、とは限りません。
米国疾病管理予防センター(CDC)は、性的活動のある25歳未満、つまり24歳以下の女性に対して、クラミジアと淋菌の検査を年1回受けるよう推奨しています。25歳以上でも、新しいパートナーや複数のパートナーがいる場合、パートナーに別のパートナーがいる場合、パートナーが性感染症と診断された場合などには、年1回の検査が推奨されています。
しかし、こうした推奨がある米国でも、検査は十分に行き届いていません。
2011~2020年の保険データでは、性的活動のある16~24歳女性の年間クラミジア検査率は、民間保険で約47~52%、公的医療保険で約55~62%でした。推奨対象者の半数前後しか、年1回の検査を受けていないことになります。
日本では、症状のない若い女性が定期的にクラミジアや淋菌の検査を受けるという習慣は、少なくとも私の診療現場では、まだ十分に広がっていないと感じます。
厚生労働省が2025年に公表した資料によると、性器クラミジア感染症と淋菌感染症の定点当たり報告数は、過去10年間で10代後半ではおおむね横ばいですが、20代では増加しています。
なお、クラミジアや淋菌は、梅毒のように国内の全症例を数えているわけではありません。全国約1,000か所の指定医療機関から報告される「定点報告」です。検査を受けていない人や、感染に気づいていない人は数字に含まれません。
報告されている数字は、実際に存在する感染の一部にすぎない可能性があります。
性感染症は、特別な人だけがかかる病気ではありません。
性交経験があれば、誰にでも起こり得ます。
ここは、誤解のないように整理しておきたいところです。
カンジダ腟炎が、クラミジアや淋菌を引き起こすわけではありません。
反対に、クラミジアに感染したことが直接の原因となってカンジダ腟炎を発症する、という明確な証拠もありません。
カンジダは、皮膚や消化管、腟内などに存在することがある真菌です。無症状で保菌している人もいますが、何らかのきっかけで増殖し、腟や外陰部に炎症を起こすと、かゆみ、発赤、白いおりものなどの症状が現れます。
通常のカンジダ腟炎は、一般的な意味での性感染症ではありません。CDCも、単純性カンジダ腟炎は通常、性交によって獲得するものではないとしています。
では、なぜ新しいパートナーとの関係が始まった時期に、カンジダとクラミジアが同時に見つかるのでしょうか。
考えられるのは、次のような流れです。
新しいパートナーとの性交が始まる
つまり、
可能性があります。
新しいパートナーとの性交が、初めてのカンジダ腟炎を引き起こす可能性はあります。
ただし、現時点では強く確立されたリスク因子とはいえません。
過去の症例対照研究では、現在のパートナーとの交際期間が短いことや、クンニリングス(口腔性交)の頻度がカンジダ腟炎と関連していました。一方で、性交頻度やパートナー数との明確な関連は認められませんでした。
このため、
新しいパートナーからカンジダを「うつされた」
というより、
と考えるほうが妥当です。
カンジダについては、パートナー間で菌や細菌叢が移動することが発症の主因だとは、まだ証明されていません。
細菌性腟症、いわゆるBVは、腟内を守っているLactobacillus属の乳酸菌が減り、Gardnerellaなどを含む複数の嫌気性菌が増えた状態です。
BVは、一つの病原体だけが性交によって感染する、典型的な性感染症とは少し異なります。
一方で、
などとの関連は、カンジダより明確です。CDCも、新規・複数パートナーやコンドーム非使用が、腟内細菌のバランスを崩しBVのリスクを高める可能性を示しています。
さらに、女性自身ではなく、パートナーに別のパートナーがいる場合にも、女性のBVが増えることを示した研究があります。
3,620人の女性を対象とした研究では、パートナーがほかの相手とも同じ時期に性交していると回答した女性は、そうでない女性よりBVを認める可能性が約1.5倍高くなっていました。
ここで一つの仮説が浮かびます。
別の女性が持つ細菌叢が男性器に移り、その男性との性交を通じて、さらに別の女性の腟内へ持ち込まれるのではないか
という仮説です。
この「第三者からパートナーを経由して本人へ」という経路が、三者の菌を連続して調べることで直接証明されたわけではありません。
しかし、男性器の細菌叢が、その後の女性パートナーのBV発症を予測することは示されています。
BVのなかった女性を含む168組のカップルを追跡した研究では、男性の陰茎や尿道口に存在するGardnerella、Sneathia、Dialisterなどの細菌構成から、その後女性がBVを発症するかを比較的高い精度で予測できました。
さらに2025年のランダム化比較試験では、BVの女性だけを治療した群では12週間以内に63%が再発したのに対し、男性パートナーにも経口薬と陰茎への外用抗菌薬を使用した群では、再発率が35%に低下しました。
これらの結果は、
BVでは、パートナー間でBV関連菌が移動し、男性パートナーが再発に関わる菌の保有場所になっている可能性がある
ことを強く支持しています。
したがって、パートナーに新しいパートナーができた場合、新たな細菌叢が持ち込まれ、本人の腟内細菌叢が変化してBVを発症するという説明には、かなりの科学的合理性があります。
ただし、BVになったという事実だけから、パートナーにほかの相手がいると判断することはできません。
BVは性行動以外の要因でも発症しますし、検査によって菌がいつ、誰から入ったのかを特定することもできません。
カンジダで受診した患者さんからクラミジアが見つかった場合、ある意味では偶然です。
カンジダとクラミジアは別の病気であり、カンジダになった人が必ずクラミジアにも感染しているわけではありません。
しかし、まったく無関係な偶然とも言い切れません。
パートナーが変わった時期には、
の両方が生じます。
そして、カンジダやBVの症状が出たために婦人科を受診し、それまで気づいていなかった性感染症を発見できたのです。
その意味では、カンジダやBVによる受診は、無症状の性感染症を見つける大切な機会ともいえます。
次のような場合には、クラミジアや淋菌の検査を考えてよいと思います。
ただし、カンジダやBVを発症したこと自体が、性感染症に感染している証拠ではありません。
大切なのは、
腟炎の原因を調べることと、無症状の性感染症がないかを調べることを、別の問題として考える
ことです。
性感染症の検査をすすめると、
「パートナーを疑っていると思われませんか」
「浮気を疑うことになりませんか」
と心配される方もいます。
しかし、性感染症の検査は、誰かを責めるためのものではありません。
クラミジアは長期間症状が出ないことがあり、検査結果だけから、いつ感染したのか、誰から感染したのかを正確に特定できない場合があります。
新しい関係が始まったタイミングでお互いに検査を受けることは、自分とパートナーの健康を守るための確認です。
性感染症の検査を、疑いや罪悪感と結びつける必要はありません。
かゆみやおりものの原因がカンジダやBVだったとしても、それだけで診察を終わらせてよいとは限りません。
特に20代前半の方や、新しいパートナーとの関係が始まった方は、症状の有無にかかわらず、クラミジアや淋菌の検査を一度考えてみてください。
カンジダやBVで受診したことが、それまで気づかなかった性感染症を早期に発見するきっかけになることがあります。
芦屋ウィメンズクリニックでは、おりものや外陰部のかゆみなどの診察とあわせて、クラミジア、淋菌をはじめとする性感染症の検査にも対応しています。
「こんなことで受診してよいのかな」と遠慮する必要はありません。
気になる症状がある方、新しいパートナーとの関係が始まり、一度検査を受けておきたい方は、気軽にご相談ください。
🔗診療予約ページ(初診よりオンライン診療もご利用いただけます)
錢 鴻武(産婦人科医/芦屋ウィメンズクリニック院長)
日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡・子宮鏡技術認定医
日本外科内視鏡学会 技術認定(産婦人科領域)
日本女性骨盤底医学会 専門医
「未来を守る医療」を信念に、子宮や卵巣の温存手術では機能の温存・回復にこだわった婦人科手術を専門に行う。
手術の技術だけでなく、術前の迷いや不安にも正面から向き合う診療スタイルが信条。
趣味はマラソン。走る医師として、サロマ湖ウルトラマラソンを10回完走し「サロマンブルー」の称号を得ている。フルマラソン自己ベストは2時間53分、富士登山競走も2回頂上まで完走。
