
未来を守る手術の話_第2回...
2025/07/21
2025/08/09
こんにちは
芦屋ウィメンズクリニックの錢 鴻武(せん こうぶ)です。
「その手術は、“今”のため? それとも“未来”のため?」
連載『未来を守る手術の話』、第4話では「病院じゃなく、“誰が手術するか”が未来を決める?」というテーマでお届けします。
手術を受ける場所を選ぶことはもちろん大切ですが、それ以上に“術者を選ぶ”という視点も、これからは当たり前になっていいと私は思っています。
あなたの未来を守るために知っておいてほしい「医師と手術の関係」について、お話しします。
(第1話 「手術って、そんなにすぐ決めないといけないの?」)
(第2話 「無事に終えた手術” でも、未来が変わってしまった女性の話」)
(第3話 「手術を受けたら、妊娠できなくなるの?」)
「どこの病院がいいですか?」
手術の相談を受けたとき、患者さんから最もよく聞かれる質問のひとつです。
そして、それはとても自然な疑問だと思います。
これらはもちろん、大切な判断材料です。
また、「大きな病院を紹介してほしい」
そう患者さんからお願いされることも、少なくありません。
たしかに、大きな病院や有名病院は安心感がありますし、設備や体制も整っています。
ですが――大きな病院と地域の病院で設備に大きな差がない場合もあります。
医療において本当に重要なのは「ハード」よりも「ソフト」、つまり“どこ”よりも“誰”です。
「どこで手術を受けるか」より、
「誰があなたの身体にメスを入れるのか」
私は、この視点がもっと知られてほしいと思っています。
たとえば同じ病院、同じ診断名、同じ手術法だったとしても――
“執刀する医師”によって、手術の進め方や術後の結果に違いが生まれることがあります。
これは、「上手い・下手」という単純な話ではありません。
“何を大切にしているか”、”治療の目的とゴールをどこに置くか”という術者の価値観や判断の違いです。
どれも間違いではありません。
でも、“あなたが望む未来”と、その医師の方針が合っているかどうか――
そこには、とても大きな差が生まれます。
実際、同じ病院を受診しても、「入口が違ったことで、結果が違った」
一見、ありえないように思えるかもしれませんが、現場では、そうしたことが起きています。
そしてもうひとつ、忘れてはいけないのが「リスクをどう背負うか」という視点です。
難易度の高い手術は、患者さんだけでなく、執刀医も医療事故や合併症などのリスクと責任を背負います。
本来は、患者さんがどこまでリスクを許容できるかを丁寧に聞き取り、それに合わせた手術方法を提案することが大切です。
そして――医師が患者さんとともにそのリスクや責任を背負う覚悟があるかどうかによって、提案される医療や、手術の結果が変わることがあります。
ただ、医師によって経験や専門分野などが異なるため、提案できる治療や方針には差があります。
そのため、ある医師では難しい手術でも、他の医師や施設なら可能な場合もあります。
こうしたとき、患者さんの希望や価値観に合う選択肢があれば、それを案内したり、適切な医療機関を紹介したりすることも、“未来を守る医療”の一部だと私は考えています。
以前、ある生殖医療を専門とする医師から、こんな声を聞いたことがあります。
「卵巣の手術をしないといけないんだろうけど、手術後に卵巣機能が落ちてしまうことがあるから、極力手術をして欲しくない」
「紹介先によっては、術後に全然採卵ができなくなったので……どこに紹介するか迷ってしまう。」
また別の時には、こんな話も耳にしました。
「腹腔鏡手術を希望して紹介したのに、開腹手術を勧められた。ほかの施設なら腹腔鏡で可能だと言われた」
「安全に開腹でやってほしかったのに、腹腔鏡手術を勧められて、その結果合併症が起きて術後が大変だった。」
その言葉に、私ははっとさせられ、同時にショックを受けました。
紹介する側の医師の思いと、紹介を受ける側の医師の治療方針に、ズレがあること。
そして、今の医療体制では、そのギャップが簡単には埋まらないという現実。
それなら――
「医師個人が責任を持って、最初から最後まで関わればいい」
私はそう考えるようになりました。
そのため、術前の診察、治療方針の決定、執刀、術後のフォローアップまで、
すべてを一貫して担う「主治医指名制」という形で手術を行っています。
クリニックでの丁寧な診療と、連携先の病院(開放型病床)での専門的な手術。
その両方を組み合わせることで、受診のハードルを下げながら、専門的な医療を提供することを目指しています。
患者さんだけでなく、紹介元の先生の思いも引き継ぎながら、
その人にとって最良の方法を提案できるよう、日々努めています。
手術は、ただの一瞬の処置ではありません。
その後の人生に深く関わる大切なイベントです。
「病院を選ぶ」は、当たり前になりつつあります。
そしてこれからは――「術者を選ぶ」ことも、当たり前になっていいと私は思います。
それは特別なわがままではありません。
あなたの未来を守るための、大切な“備え”です。
選べるなら、選んでほしい。
そして、あなたが何を大切にしたいのか、
その声にちゃんと耳を傾けてくれる医師と出会ってほしい。
そんな願いを込めて、私はこの連載を書いています。
この連載も、いよいよ最終話を迎えます。
最後は、これまで読んでくださったあなたへ、
医師として、そしてひとりの人間として、
いちばんお伝えしたかった言葉を綴りました。
迷う気持ちは、未来を大切にしようとする証。
だからこそ、焦らなくて大丈夫です。
あなたのペースで、一歩ずつ――。
どうか、最終話も読んでいただけたら幸いです。
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錢 鴻武(産婦人科医/芦屋ウィメンズクリニック院長)
日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡・子宮鏡技術認定医
日本外科内視鏡学会 技術認定(産婦人科領域)
日本女性骨盤底医学会 専門医
「未来を守る医療」を信念に、子宮や卵巣の温存手術では機能の温存・回復にこだわった婦人科手術を専門に行う。
手術の技術だけでなく、術前の迷いや不安にも正面から向き合う診療スタイルが信条。
趣味はマラソン。走る医師として、サロマ湖ウルトラマラソンを10回完走し「サロマンブルー」の称号を得ている。フルマラソン自己ベストは2時間53分、富士登山競走も2回頂上まで完走。