体験談じゃなく、”正解”が知りたいあなたへ_第3回...
2026/02/28
2026/02/28
こんにちは🌿
芦屋ウィメンズクリニックの
錢 鴻武(せん こうぶ)です。
「その情報は、あなたのための“正解”ですか?」
ネットには、手術を受けた方の体験談があふれています。
ときに心強く、ときに不安を強めてしまう――
その情報と、医療としての説明の間にある「距離」について、
この連載では少し立ち止まって考えていきます。
連載『体験談じゃなく、“正解”が知りたいあなたへ』
第3回のテーマは
「術前・術後の飲食のルール」です。
「絶食ってどこまで?」
「水もダメ?」
「術後は重湯からじゃないと危ない?」
多くの方が不安に感じるこのテーマ。
今回は、“本当のところ”を分かりやすく整理します。
手術の前日、「もう何も食べちゃダメです」と言われると、
「いつまで食べられないんだろう?」
「おなか空かないかな?」と不安になりますよね。
さらにネットで体験談を読むと――
「水もダメだった」
「まる一日飲み食いできずにつらかった」
「術後は重湯から少しずつ戻しました」
など、情報はさまざま。
でも実は、医学的な基準と
病院ごとの実際の運用には少し差があります。
現在の一般的な基準では
(挿管困難が予測される方、誤嚥リスクが高い方、胃排出遅延が疑われる方を除き)
これが世界的に推奨されている
「6時間・2時間ルール」です。
胃の中が空であれば、麻酔中の誤嚥リスクは下げられます。
つまり、必要以上に我慢する必要はないという考え方です。
むしろ絶飲食が長すぎると、
といった、デメリットも報告されています。
「前日の夜8時以降は何も口にしないでください」
「朝の手術なので、水も朝からNGです」
実際には、6時間以上の絶食になるケースも少なくありません。
ある観察研究では、
固形物の絶食時間の中央値は14.1時間、
液体は9.8時間と報告されています。
では、それは“間違い”なのでしょうか。
そう単純な話ではありません。
医学は進歩しています。
エビデンスは更新され、より負担の少ない方法が示されています。
けれど、病院という組織の運用は、
必ずしもそのスピードと同じ速さでは動きません。
医療者サイドが、より患者ファーストの目線で業務を常に見直していくことを願っていますが、
安全確認の手順、人員体制、責任の所在、
一つのルールを変えるには、想像以上の調整が必要になります。
医学的な正解が更新されても、
「いつから変えるか」は、医学だけで決まるわけではない――
それが現場の現実です。
だからこそ、
どのスタイルが“絶対に間違い”という話ではありません。
大切なのは、その施設で手術を受けると決めたなら、
提示された指示をきちんと守ること。
患者さんも手術チームの一員です。
一緒に安全をつくっていきましょう。
これもよくある誤解の一つですが、
婦人科の腹腔鏡手術では、
胃や腸を切ったりつないだりすることは基本的にありません。
そのため医学的には、
とされています。
むしろ、早期に経口摂取を始めた方が
腸閉塞の発生率を下げ、入院期間を短縮できる
というデータもあります。
固形物が食べられないのであれば、水分だけ、またはガムをかむだけでも効果はあるといわれれています。
もちろん、体調や食欲は人それぞれ。
無理に食べる必要はありません。
でも医学的には、
「普通食で大丈夫」が現在のスタンダードです。
私は、できるだけ自然で楽な回復を目指して、
現在のエビデンスに基づいた管理へとアップデートしています。
「昔からこうしているから」ではなく、
「今の医学ではどう考えられているか」を基準にしています。
具体的には、
・術後3時間前後で飲水OK
・手術当日の夕食から食事開始
・体調が良ければ普通食
としています。
過度に我慢させない。
必要以上に制限しない。
けれど、安全はきちんと担保する。
このバランスが大切だと考えています。
これまで、この管理で大きなトラブルは経験していません。
ただし、麻酔後は腸の動きが少し鈍っています。
食欲があっても、がっつきすぎると
吐き気や不調につながることもあります。
「食べていい」は「無理に食べる」ではありません。
自分の体調と相談しながら進めることが大切ですね。
✔️ 医学的には「6時間前の食事・2時間前の飲水」でOK
✔️ 病院事情で早めに止める場合もあるが、それも間違いではない
✔️ 婦人科腹腔鏡手術では、術後すぐ普通食も可能
次回は、
「お風呂は?シャワーは?入院は何日が“ふつう”?」
傷は濡れていい?
湯船はいつから?
髪は洗える?
退院は何日目?
術後の“清潔と回復”のちょうどいいバランスを、
やさしく解説していきます。
🔗診療予約ページ(初診よりオンライン診療もご利用いただけます)
錢 鴻武(産婦人科医/芦屋ウィメンズクリニック院長)
日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡・子宮鏡技術認定医
日本外科内視鏡学会 技術認定(産婦人科領域)
日本女性骨盤底医学会 専門医
「未来を守る医療」を信念に、子宮や卵巣の温存手術では機能の温存・回復にこだわった婦人科手術を専門に行う。
手術の技術だけでなく、術前の迷いや不安にも正面から向き合う診療スタイルが信条。